登場人物伝

嘉永七年江戸遊学帰藩後の河田小龍と龍馬

 

嘉永七年六月二十三日、龍馬は

第一回目の江戸遊学を終え土佐に帰った。

江戸で黒船来航を直接的に体感してきた。

 

また、日本中から集った優れた人材との出会いも収穫であった。

しかし、何故か心の中はモヤモヤとし、何を為すべきかがわからない。

龍馬の命をどんなことに傾注し、その若さを燃焼させるのか。

 

 

河田小龍、墨雲洞での対話で世界の知識に触れる

 

 

嘉永七年十一月五日、安政南海地震(寅の大変)で発生した。

高知城下はほとんど無傷であった。

しかし津波をともない河田小龍かわだしょうりゅうの住処は他に移らざるを得なかった。

 

 

河田小龍との出会いなくして龍馬の海援隊はない

 

 

小龍は吉田東洋の引き立てもあり高知城下きっての有識者と言われていた。

絵師であり、その絵を描く以前に学問を欲した。

東洋の勧めもあり、京都、大阪で絵を学び、長崎で蘭語にも精通していた。

 

 

そんな事情からジョン万次郎が持ち帰った世界地図に記された国名の和訳を依頼された。

しかしその任務中に万次郎の経験した知識に特段の興味を持った。

小龍は万次郎に忘れてしまった日本語を教えながら自分は英語を学んだ。

 

 

小龍は自宅で万次郎と寝起きを共にしながらその知識を書き残した。

その結果が漂巽紀畧ひょうそんきりゃく五巻として藩はもとより諸大名に読まれた。

なんと万次郎はそんな事情で幕府直参に取り立てられた。

 

 

地震が縁で龍馬は小龍の墨雲洞を訪れた。

しかし、「ただの絵描きであって何の意見も思想もない」と小龍はなかなか胸襟を開かなかった。

龍馬は真剣に小龍を持ち前の話術で口説き落としたのだ。

 

 

「黒船が来航するような時勢で安穏と書画等に興じている場合ではない」

「自分のような若輩が悶々と日々を過ごす中、今後どうすべきかを教えてください」

龍馬の真剣さに心を打たれた小龍は自分の思いの丈を語った。

 

 

日本が西洋文明に適うものは無い。

日本中の沿海諸藩は蒸気船に対抗できる船を持っていない。

戦が出来る海軍もなければ大砲を積んだ船もない。

 

 

この度の黒船来航を契機にどんどん西洋諸国がやってくる。

このままでは日本は混乱するばかりで為す術がない。

しかし、今ここで商業を興し、金融を自在に行えるようにする。

 

 

是が非でも一隻の蒸気船を手に入れ、同志を募って物資運搬の商業を盛んに行いながら航海術を身に付けることが最優先である。

龍馬の顔は急に明るくなって手を叩いて喜んだ。

「剣術は一人を相手にするだけだが、志を成そうと思えば大業を起こさねばならない」

 

 

「小龍先生の意見には全く同感である。今後は一緒に協力して奮励努力しよう」

と語り硬い盟約を結んだ。

再び小龍を訪ね「同志をどう集めるか」

 

 

「幕府や藩体制の人間は俸禄に満足していて志がない。

在野には志があっても貧しくてその力を発揮できない者が少なからずいる。

そうした人材を用いるべきだ。」

 

 

龍馬は「君は内にいて人を作り、私は外にいて船を得よう」

 

 

河田小龍事情

 

 

龍馬について調べていると

いつも思うことがある。

その名が出て来る人々が皆、何らかの縁があって本来は仲が良い。

 

 

他の文献では、河田小龍の存在などはそれほど重要視されていない。

しかし、武市半平太、田中光顕も墨雲洞で学んでいた。

吉田東洋の藩政改革では小龍も重要な役割を与えられていた。

 

 

小龍は嘉永七年八月、薩摩藩に行き大砲鋳造の反射炉や造船所を見学してきている。

半平太も「殺すには惜しい」と言いながら、何故、東洋を暗殺させたのか?

龍馬史に関係する土佐人は皆仲良しに思えるし見える。

 

 

その墨雲洞で長岡謙吉、近藤長次郎、新宮馬之助、岡崎参三郎等が学んでいる。

また小龍の親友である藩御用格医師、岡上寿庵の妻は龍馬の姉、乙女である。

近藤長次郎は小龍の妻、その甥に当たる。

 

 

司馬さんの「竜馬がゆく」との齟齬

 

 

竜馬が河田小龍の元へ訪れるのは二度目の江戸遊学から帰藩してからである。

始めは相手にされず、饅頭屋長次郎が蘭語を教える”ねずみ”のような師匠につく。

そこで西洋の政体について学ぶことになる。

 

 

オランダ語を学ぶフリをしてその本の大意を掴む能力が世間に知られた。

そして河田小龍との面談が長次郎を介して成し遂げられる。

”まぜめし”をおんしの分も持ってきたぜよ。

 

 

そこでちゃっかり”サンドウィッチ”が生まれた事情が説明される。

しかし、なんとも和やかな風景ではないでしょうか。

迎えに来た饅頭屋長次郎の分までおにぎりを持ってくるところがのどかである。

 

おやべさんが作ってくれた。