竜馬が高知の衆目を集めたのは
14歳で入門した日根野道場で5年修行を積んで
小栗流目録を19歳で与えられてからだった。
竜馬の自己鍛錬法は効果的
同門の仲間は盛んに座禅を行っていた。
それが馬鹿馬鹿しくて歩きながら無の心境になる。
頭の上からたとえ巨岩が落ちてきても気にすることなく砕かれ死する。
竜馬は何がおきても気にすることなく平然と死ねる歩禅を続けた
どんなことで思いついたのか?
禅をするとは自分を滅する修行である。
それでいて周囲は常に変化を続けている。
そこを歩き続けるのである。
しかし、それも4年続けると馬鹿馬鹿しくなった。
勝手に想像している巨岩に脅かされていることがおかしく思えた。
気が付けば、そんなことは直ぐに忘れてしまった。
自分で考えて行った修行の結果にも気が付かず
体中に剣道場の臭いが染みついていた。
竜馬は大きい、うしろが斬れぬわい
あるとき日根野道場の師範代土居揚五郎が帯屋町の往来を歩くうしろ姿を見つめた。
竜馬自身は我流の修行を忘れてしまっていたが、竜馬を格段に成長させていた。
姉乙女や家族の知らないところで竜馬の剣は常識を超えて強くなっていた。
竜馬はつよい。
正月の日根野道場における大試合があった。
三人の切紙と立ちあって初太刀でしりぞけた。
次ぎに古参株ふたりの面と胴を取った。
※切紙--昔は段位がなく、修行した技前によって階級をつけた。
その一番初歩のランクが切紙である。
これは紙の切れはしなど簡単なものに修行修得した技前が書いてあった。
翌日、日根野弁治は小栗流目録を竜馬にあたえた。
わずか19歳である。
異例なことであった。
ご子息は剣で飯が食えます
父八平と兄権平の愛情は深い。
まさか龍馬が19歳で目録に
「金はかかるが江戸へ修行に出し、ゆくゆくは剣術道場を」
日根野弁治は「御子息なら、剣でめしが食えます」
と太鼓判である。
おまけに北辰一刀流に入門できるよう添書を書くという。
千葉周作は高齢であったこと
そして身分もあったので京橋桶町に道場を持つ周作の弟、貞吉先生の道場を進めてくれた。
※上士は千葉周作玄武館、下士は子千葉、貞吉お玉ケ池に集まった。
物語はまさに江戸への門出からはじまる。
土佐の風習からたくさんの人物が飛び出してくる。
誰もが龍馬に深い愛情をそそいでいる。
源おんちゃん
源おんちゃんの妻
姉乙女
兄権平
姉千鶴
道具屋の阿弥陀仏
母幸子
継母伊与
父八平
福岡宮内
権平の娘、春猪
- 島崎七内、池次作、楠山庄助、日根野弁治、岡上新輔、土居揚五郎など。
竜馬は深い愛情から離れ
江戸に向かう。
からたちのまじない
門出に無事家郷にふたたび元気に帰ってくることを祈るお呪い。
門の雨だれが落ちる場所に小石を置く
そして旅立つものはその小石を踏むのである。
旅は若者を育む。
どの命も短かった時代である。
その心中を思うと如何ほどか。
特に竜馬の息を感じるような文脈はない。
やがて阿波の岡崎ノ浦に着く。
ここからは船での移動になる。
多くの旅人がここを起点として集まってくる。
大阪の天保山沖や淡路の福良に便船が通っている。
山々を越えてきた竜馬には久しぶりに嗅ぐ磯の香り。
船宿が狭い道の両側に建ち並び
お遍路さん、旅商人、雲水、客引きのおんな
突然、人があふれ出す。
- 雲水 禅宗の修行僧の一般的呼称
これからの竜馬は当然、その息吹を感じることができる。
19歳とはこれほどに大人びているものか?
時にそう思うこともある。
物語の主人公をメインに話しながらも
舞台の背景や時代背景を説明しなければならない。
また白黒物語に色を添える作業も欠かせない。
司馬さんの文章にムービーを越える表現力を感じるわけだ。